今回は築50年を超える店舗併設事務所の部分改修をご紹介します。店舗部分の内外装改修と、屋根、構造部の補修、耐震補強を行いました。
一つの屋根がつなぐ2つのデザイン
元となる建物は棒状の雪止めがついた切妻屋根に白のモルタル壁、タイルの腰壁。ありふれていますが、昭和の素朴な雰囲気がそのまま残っています。店舗部分は後から増築された箇所もあり、半円状の形が特徴的で近代和風というようなデザインです。
改修を施す店舗部分は新しい企業の顔になります。店舗部分の外装と既存のまま残す外装をどう調和させるかが鍵となりました。
検討の結果、建物を一体で覆っているレトロな切妻屋根を改修部と既存部をつなぐ要素として活かし、ありのままの企業の歴史と、企業が発信したい姿を並列させられないかと考えました。
改装部分は「老舗」を強調してリブランディング
店舗部分は、信頼と歴史を築いてきた企業であることを新たに内外装によって演出しています。
これは、同時期に行われていた「老舗」を強調した商品リブランディングに合わせてのことです。改修前の建物は素朴な昭和風ですが、店舗は商品ブランディングに合わせて改修前の建物よりも古い時代を感じさせる要素を取り込んでいます。
外造材を屋根材に近い濃い色の金属板とし、落ち着いた雰囲気を作りました。デザインが特徴的だった増築箇所も同色の外装材を張り上げることで余計なデザインを極力排除しました。さらに窓部分には縦格子をつけ、外装に古い屋号を使ったロゴサインを大きく掲げることで、より古風な佇まいを作り出しました。
外装の色が既存は白、改修部は濃いグレーと、ぱきっと違うので、一見違う建物が隣り合っているように見えます。しかし、屋根は一つで、どちらの外装デザインにも調和しているという不思議な見え方が成立しています。
既存部が表すリアルな歴史
建物すべてを改修しなかったのはコストや事務所の事業継続性といった理由からでした。しかし、演出とリアル、2つの「老舗」の外観が並列することで結果的にブランディングに奥行きを与えることができました。
古さをポジティブに残す
改修というのは、工事範囲が広ければ広いほどコストや時間がかかります。ですから、改修箇所は取捨選択して抑える工夫が大事です。
一方、手を加えなかった箇所が後に歴史的に評価される可能性もありますし、デザイントレンドが変わって元の魅力が再発見される可能性もあります。本物の古さというのは一度失ってしまうと再現不能です。
ありふれた建物においても、保存することで価値を活かせる箇所ないか考えるポジティブ思考があると、コストコントロールのみならず、改修する建物の価値に深みを与えることができると思います。